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惑星エクダにはどんな病でも治すと言われる奇跡の泉の伝説がある。だがその泉は邪心ある者の前では魔の毒水に変化するという――エクダの泉に秘められた謎とは? そして泉を探しにやってきた地球人の若者とエクダの娘の運命は…。
本格SF。旧版「エクダの泉」のリメイク版です。WEBで創作活動を始めるに当たって一番最初にやりたかったのがこの作品のリメイクでした。週1(~2)頁というスローペースでの連載だったため、約10ヶ月かけて完成。こういう形でも漫画は描けるんだという、WEBの可能性をあらためて感じさせてくれた作品。
基本設定は旧版とほとんど同じです。違うところはケンイチの伯父だった社長が他人になっているところぐらいでしょうか。泉の正体も旧版と同じ設定です。ただし、キャラクターの性格設定は大きく異なっています。そのため、同じ内容を扱いながらも、ストーリー構成や展開は別物といっていいくらい旧版とは異なっています。
実は旧版では、主人公はルゥでした。SF性を前面に出しすぎると難しくなると考え、表面的には恋愛物っぽく描くことにしたのですが、よく考えてみればルゥにはエクダの泉を探す理由がない…。そのため、肝心のエクダの泉発見のシーンで主役として立つことができず、せっかくの科学考証も十分生かしきれないまま終ってしまい、ドラマとしても中途半端なものになってしまいました。やはり物語の本質が「泉の謎の解明」である以上、泉を探したい、謎を解きたいと思っている人物が主役でないと話が展開していかない。そこで今回はケンイチを主人公に据え、彼の生き様の方に焦点を当てた話作りをすることにし、それに合わせてキャラクターも一からしっかり作り直しました。
また、旧版はどちらかというとストーリーのためにキャラがいるという感じでしたが、今回はキャラのためにストーリーを作る、という方向で構成しました。これは微妙な違いですが、大きな違いでもあると思います。私には物語としての完成度を重視しがちな傾向があるようなので、こういう形で話作りができたことはいい勉強になったと思います。
エクダの泉のSF設定について。
実はさかのぼること、最初の出発点は「惑星デラの異邦人」だったんですね。免疫と遺伝と環境適応をテーマに正面からSFを描きたいと取り組んだものの、かんじんのストーリー構成に失敗。その設定の一部を「インペリアル・ドリーム(旧版)」に生かそうとしたものの、こちらも失敗。そこでより設定をかみくだき「泉の謎」という誰にでも分かりやすく興味を持ってもらえる形にし、「旧版エクダの泉」に取り組んだわけですが、思うような作品に仕上がらず…。そこで科学の部分を取り払い、SFではなくファンタジーという形で構成し直したのが「ウォータークラウンの森」なのです。でもこれで終わりにしたくはない…。どうにかして最初の思いを形にしてみたい…。そこで今回、全面仕切り直しという形でようやく完成をみたのがこの「新版エクダの泉」です。振り返れば20年にわたる思いがようやく結実できたということで、未熟なところはあるにしても、自分としては満足できたと思います。
SFにこだわり続けて。
SFが好きです。ファンタジーも好きだけど、やっぱり私の原点はSFなのだろうと思います。SFとはScience Fiction、直訳すれば空想科学。SFを描くならやはり「空想科学」の部分を楽しむのが目的の物語を描きたいです。物語を面白くするためにSFふう設定を利用するのではなく、SF設定それ自体を楽しむために物語を作る。SF設定こそが主役であり、テーマそのものであると。この物語にもそんな私なりのこだわりのSF観が入っていると思います。表面的にはどんな物語であろうとも、真の主人公はやっぱり惑星エクダとエクダの泉。そんな思いを最後の一コマにこめてみました。
2024年発行のペーパーバック「エクダの泉」に収録。